近藤ナツコ+遠藤フビト

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2009年9月4日、南青山 MANDALA。音楽ライターの熊谷美広氏、通称クマさんが主催するセッションイベント『JAM FOR JOY』に初めて参加した。この頃僕はまだSpitFunkをやっていたが、11月の東阪公演を最後に(無期限活動休止という名目で)解散する事が決まっていた。

SpitFunkをやっていた10年間、いわゆるセッションイベントというものに呼ばれた事が殆どなかったので、出演者の中に友人はおろか知っている人もほとんどいなかったが、そんな事はなんの障害にもならず、すぐに大勢の仲間ができた。

クマさんは大変クセのある人で、決して良い人でも、立派な人物でもなかった。少なくとも僕にとってはそうだ。しかし彼の音楽に対する深い造詣と底なしの愛は本物で、そこを疑った事は一度もない。その深すぎる愛は最終的に彼自身の身を滅ぼしてしまった。しかしその引き換えに、本当に沢山のミュージシャンを繋いでくれた。彼は、音楽の殉教者だったと僕は思う。

数えきれない程『JAM FOR JOY』に出たつもりになっていたが、数えてみたら、僕が出たのは番外編を含め6回だけだった。そのたった6回で、僕は何十人ものかけがえのない友人を得た。大勢の先輩方、後輩たち。僕の人生においてなくてはならない人々。

『JAM FOR JOY』で出会えた沢山のミュージシャンの中でも、m.c.A・Tと近藤ナツコの二人は、僕にとって本当に特別な存在だ。年齢的にもキャリア的にも大先輩。本来は対等の付き合いができる関係ではない。でも二人は僕を親友と呼んでくれている。ATとなっちゃんと、やはり『JAM FOR JOY』で知り合った素晴らしいミュージシャンたちと、2011年から『Have FUN with F.A.N』というイベントをやっている。

COVID-19パンデミックが収まりつつあった昨年、4年ぶりに『FAN』をやろうと、東京に加え8年ぶりの大阪と初の札幌公演を決めた。ところが札幌公演の直前にATが陽性判定を受けた。僕は当然公演を中止すべきと思ったが、ATの強い希望で、僕となっちゃんの二人で公演を行う事になった。地元のスターであり、この日の主役であるATの出演がキャンセルになり、無理やりやったところで一体何人が観に来てくれるのか。AT抜きのショウを楽しんで貰えるのか。そんな心配をしながら公演当日を迎えるのは一体何年ぶりの事だっただろう。

主役抜きでお前らだけ来るなよ。そんな顔をされても仕方がない。初めて訪れる店のドアを開けると、出迎えてくれたお店のオーナーさんとブッキングマネージャーさんは満面の笑顔だった。嬉しかった。全力を尽くそうと誓った。多分、一生忘れないだろう。バンドと合流し、挨拶を交わしていざリハーサルが始まるという時、クマさんの訃報が飛び込んできた。不思議な縁を感じた。

どう考えても、何を差し引いても、返しようのない程の恩がある。それなのに、今となってはつまらない事で喧嘩をして、僕はクマさんと絶縁してしまった。年長者のクマさんの方から折れ、謝罪を申し入れてくれたが僕は彼を許さず、その後一切彼と関わらなかった。彼の訃報に触れた時、その事を僕は初めて後悔した。

札幌でのライブは、結果的に本当に素晴らしいものになった。キャンセルはほとんどなく、会場は超満員。全員初対面のバンドも大変熱のこもったパフォーマンスを提供してくれた。やれない理由を探すのではなく、まずひと足を踏み出すことが大事なのだと、心から思った。

今年はATが30周年のアニバーサリーで多忙を極めていて『FAN』をやるのは難しい。これをある意味で好機と捉えて、僕となっちゃんの二人でツアーをやる事にした。東名阪4公演。ピアノはなっちゃんと関係の深い赤石香喜さんにお願いした。そもそも『FAN』は、僕となっちゃんのデュオライヴを計画していたところに、面白そうだからとATが乗ってくれてはじまった。まわりまわって当初の形に戻ったとも言える。人生は面白い。

これまでSaltieと沢山デュオライヴをやって来て、歌い慣れた曲は沢山あるけれども、どうせなら今までやっていない曲を歌おうと思う。是非沢山の方にお会いできますように。


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